「映像&史跡 fun」は、映像・テレビ番組・史跡・旅・動画撮影のヒントなどをご紹介するコラムです。


歴男 歴女、スーツを着こなして…

【概要】歴史好き・歴史ファン・歴史マニアにせまる。木を見て森を見ず。歴史力アップ。歴史のリセット。歴史の妄想旅行。織田裕二さんとスーツ。


◇まさかのスーツ

今は長期お休み中の大人や学生さんが読んでくれることも多いので、今回のコラムは、歴史ファンの立場から、歴史の面白さを少しだけ書いてみたいと思います。

今、世の中は「国民総自粛」の巣ごもり状態のため、それぞれ個人の専門分野や趣味分野の見識や技能の向上、さらに新しい趣味の開拓など、想像もできなかった別の影響が出始めていますね。

これは、趣味や専門分野の話しではありませんが、先日、ある主婦のブログを読んでいましたら、面白い内容を見つけました。
亭主が、朝、スーツ(背広)にしっかり着替えて、会社ではなく、自分の家のパソコンのある部屋に、「行ってきます」と言って出勤するのだそうです。
奥さんは、久しぶりに見た亭主のカッコいいスーツ姿での仕事ぶりに、うっとりメロメロになったのだそうです。
スーツとは、これほど効果があるツールだったのかと、あらためて驚かされました。

おそらく、奥さんや子供は、パパが家の中で、部屋着やジャージあたりの格好で仕事をしていたら、気持ちや態度ががらりと変わっていたのだろうと想像します。
そういえば私も、幼かった頃に、父親のスーツやネクタイに憧れた頃があったことを思い出しました。

今、新型コロナ問題で撮影が中断中のフジテレビのドラマ「スーツ(シーズン2)」も、登場人物たちが着ているスーツは、いってみれば、もうひとつの主役ですね。
スーツを着こなせない男優は、だれひとり出演していません。

スーツの基本的な形状というのは、歴史的にほとんど変化していませんが、その謎がひとつ、スーッと解けた気がしました。
何とも、人の気を惹き付け、気持ちを変えさせる、スーツです。


◇歴史からの恩恵

さて、想像もできなかった、さまざまな影響の話しですが、今、歴史の分野でいえば、「歴史」に関連した書籍が、大人にも子供にも売れまくっているそうですね。

世の中には、歴史に興味を持つ人と、持たない人に、おおよそ二分されます。
真ん中あたりという人は、あまりいないのかもしれません。

とはいえ、ひと言で「歴史好き」とは言っても、いろいろなタイプに分かれますね。

古墳時代専門の方、戦国時代専門の方、平安王朝専門の方、応仁の乱専門の方、幕末の明治維新専門の方、神話が専門の方、昭和の戦前戦後が専門の方…など、自分なりに好きな時代を持っている人が少なくありません。

また、特定の戦国武将、特定の地域の歴史、地元の歴史専門、お城やお寺などの建築物専門、お城の中でも石垣専門、武将の戦(いくさ)専門、平安時代の装束専門、古美術品専門、刀剣専門、甲冑専門、歴史博物館専門、古地図専門、古写真専門、御朱印専門、埴輪や土器が専門、音楽の歴史専門、芸能の歴史専門、大河ドラマ専門…などなど、深掘りしていったらキリがありません。

歴史ファン、歴史マニア、歴史好きの方々は、そうした たくさんの分野の中から、好きで得意な分野を複数持っているはずです。
大きな意味では、「歴史」というキーワードで、みな つながっていますので、各分野を自由に行ったり来たりしています。
時間がありすぎて、やることがない、暇をもてあます…、ということは歴史ファンには、まずありません。

そうです、そうなのです。
歴史ファンは、いつも何かの歴史の疑問を抱えていて、それを探求したくて、うずうずしているのです。

* * *

前述しました多くの細かな分野は、すべてが歴史と結びついています。
ですから、どうしても、先人たちのことを想ったり、先人たちから教えられたりすることが、非常に多いですね。

歴史を学んでおくことのメリット(長所)のひとつとして、歴史ファン自身が現代の今を生きる際、何かの課題や問題にぶつかったときに、その「よりどころ」として、歴史を思い返すということが、よくあります。

現代の今、社会で起きている問題や、個人の人生や仕事で起きる問題は、たいがい過去の歴史の中に同じようなことが起きています。
私も、人生やビジネスの中で、どのくらいの数、先人たちの成功や失敗から、間違いを防いだり、アイデアを発想できたことでしょう。
歴史を知らなかったから、おそらく失敗あるいは危険な目にあったであろうということは、たくさんありました。

さらに、ものごとを思考する仕方や、判断の仕方も、たくさん学べた気がします。
歴史から受ける恩恵は絶大なものがあると感じています。

* * *

実は、こうした恩恵の部分は、教科書に応用編として紹介されているわけでもなく、学校の授業でもほとんど教えてくれません。
ですから、歴史ファンは、自分の足で、そこまでたどりつこうと努力するのです。
努力というよりも、それが楽しさであり満足感であろうと思います。

周囲の「歴史好き」の人たちを、あらためて見てみてください。
自分の専門外であっても、好奇心を抱いたり、ものの本質を考えようとしたり、過去の歴史と照らしあわせて考えてみたり、自分なりの歴史観をもとにものを見たりしてはいませんか。
「無」の状態から、ものを創るような仕事をする人たちの中に、「歴史好き」が多いのも事実ですね。

* * *

今、多くの学校が休校中ですが、こんなことを多く耳にします。
この休校中に、学力や人間力を、猛烈に伸ばしている子供たちも少なくないと…。
もちろん、それとは真逆のケースもあるでしょう。
ですが、もともと学力や人間力は、学校教育や家庭の経済力だけに左右されるものでもない気がしています。

歴史を振りかえると、貧しい環境からでも、多くの偉人たちが輩出されてきました。
みな苦しい境遇に負けることはありませんでしたね。

今、私たちや世の中は、新型コロナだけに囲まれているわけではありません。
愛や正義、理想や希望、野望や陰謀、探求心や学びにだって、しっかり取り囲まれています。
自分の子供たちが、今、何に囲まれているのか…。

伸びているのか、伸び悩んでいるのか、あるいは何かの奈落に落ちていっているのかは、周囲の大人の見識にかかっているのかもしれませんね。

個人的には、大河ドラマでも、アニメでも、ゲームでも、何でもいいので、「歴史」という着眼点や発想力を、どうか身につけてほしいと思っています。
未来は、歴史の延長上でしか生まれてこないような気がしています。


◇歴史力アップ

つい先日、ある娘さんから、こんな質問を受けました。
娘さんは学生さんです。

学校の成績は、とても良いのですが、日本史だけが苦手で、いつも日本史が足を引っ張ると言うのです。
一応、暗記をするようなのですが、試験になると、答えまでたどりつけないのだそうです。
後で聞くと、しっかり名前や出来事を知っているのです。
「どうしたら、克服できますか?」というものでした。

どうも、特定の質問パターンで問われないと、答えを導き出せないような印象を受けました。
解決策になるかどうかは、わかりませんでしたが、私が学生だった頃の話しをしました。

* * *

私は、子供の頃から、日本史を覚えようとしたことは、おそらく一度もなかったと思います。
今でもそうです。
ほぼ興味や好奇心のおもむくままです。

ただ、日本史に触れる時に、いつも思うことは、「どうして?」です。
「〇〇という歴史上の人物が、〇〇時代に、〇〇だから、〇〇を行った」
こんな通りいっぺんの説明文を、まったく信用しない子供時代だったような気がします。

しいていえば、「〇〇という行為を行ったのは、〇〇のような時代だったからで、〇〇という特別な理由があったからそれが行われ、でも それをどうして○○という人物が行う必要があったのか?」…、このような視点で日本史を見ようとしていた気がします。
実は、今でもそうかもしれません。

武田信玄と上杉謙信が、どうして、自分たちの両国ではない、あんな山に囲まれた場所で、何度も戦わなくてはいけないのか…、どうして いつまでも決着がつかないのか、だいたい こんな戦い方でいいのか…、ひょっとして二人とも時代遅れの人物ではないのか…。
それでは、時代の最先端の戦い方をしていたのは誰だったのか…、なぜ最先端になれたのか…。
こうしたことは、現代の大人たちにも参考になりますよね。

* * *

私は子供の頃から、テレビ大好きっ子でもありましたので、子供の頃は、日本史に触れた時に、いつも自分なりにドラマ化したら…、ということを妄想していました。
誰が演じて、どんな台詞を言うのか、どんなシーンを作るのか、最後はどのように完結させるのか…、そんなことを思っているうちに、知らず知らずに、人物名や、出来事の名称を覚えていました。

ドラマ化を妄想する面白さは、その登場人物の気持ちや考え方にも、想像が及ぶことです。
歴史上の人物たちが、どのような気持ちや考えを持っていたのか、どんな人物像だったのかを想像しなければ、頭の中でドラマ化できないのです。

現代の学校の歴史授業の中で、織田信長の性格分析とか行動パターンとかを、クラスのなかで議論するようなことは行われているのでしょうか…?
私は、よく知りません。

よく、自分が教師になって生徒たちに教えるという想定で、勉強をしていく学生がいますが、この妄想ドラマ化は、それにもちょっと似ているかもしれませんね。
どの科目もそうかもしれませんが、「暗記ごっこ」は、大人になってから、使いものになりません。

ですから、私は今でも、年号の記憶は、かなりアバウトです。
でも、キーになる年号さえ覚えておけば、そこから逆算すれば、だいたい歴史の流れは間違えません。
受験は別かもしれませんが、キーになる年号は、そうそう多くはありませんよね。
そもそも試験で、年号の設問など、それほど意味があるとも思えません。

私は年齢のせいか、人物名や出来事の名称が、結構ぐちゃぐちゃになってきました。
でも、理由や出来事のつながりは、意外に忘れていません。
「つながり」という歴史の連鎖は、ある意味、歴史の本質といえるかもしれませんね。


◇forest for the trees

質問してきたその彼女に言ったのは、前述の、「どうして?」と、ドラマ仕立てのイメージのほかに、もし日本史の勉強に時間的な余裕があれば、ざっくりと日本史全体の流れを先に、だいたい理解しておいて、その中で、○○時代は日本史全体の中で、どういう役割を果たした時代だったのかを理解しておくと、それぞれの時代の中の細かな出来事の意味や理由がわかりやすいということは話しました。

「森」を見てから、「木」を見るというものです。
英語圏の国にも、「forest for the trees」という、よく似たことわざがありますね。
日本的に言えば、「木を見て、森を見ず」ですね。
現代のビジネス社会でもよく耳にする、戒めのことわざです。

個々の「木」だけを見ていては、その場所に、なぜ、その木があるのかが、まったくわかりません。
意味のわからない木のことは、なかなか覚えられません。
年号なんて、なおさらです。

ここで「木」と書きましたが、これが、城でも、神社でも、寺でも、御朱印でも、同じことだと思います。
「森」を知ると、その個々の木々たちが、さらに魅力的に見えてくると思います。

* * *

私自身も、「歴史好き」になる発端は、「お城好き」でした。
興味は、カッコいい街の中のお城から、山城に向かい、石垣に向かい、縄張りに向かい、それが武将に向かい、戦の内容に向かい、その後、人間ドラマを含めた歴史の全体が大好きになっていきました。
お寺も、荘厳な建物から入り、仏像に向かい、庭に向かい、その宗教のことに向かいました。

歴史好きになる発端が、好きなお城やお寺、仏像であったという方も少なくありません。
古墳や埴輪(はにわ)、テレビの時代劇という方も多くおられます。
もちろん源氏物語から入る人もおられます。

私の好奇心はさらに拡がり、古地図探しの後は、街にある昭和の遺構や、古い商店街、懐かしい古道具…、さらにどんどん広がって、最新の建築物でさえ20年後を想像して見てしまいます。
私は仕事が映像屋でもあるので、今、自分の目の前の方のお顔の、30年前や30年後が想像できるようにもなりました。

好奇心が面倒くさいという方には、ちょっと歴史は面倒くさいかもしれませんね。
みんながみんな、「森」に入って行く必要はありませんしね…。


◇リセット

さて、話しを戻します。

歴史の出来事の意味や理由がわかると、それに必要な人物はどのような人物なのかが、何となく わかってきます。
意外と、そのとおりの人物が歴史に登場してくるものです。
今風の言い方でしたら、「時代が求める人物」です。

質問してきた彼女に、さらに話したのは、日本史には、いくつか リセットされる時点があるということです。
リセットごとに、「誕生・成長・成熟・腐敗・混乱・戦争・完結」があり、そんなことを繰り返します。

奈良時代から平安時代まで、鎌倉時代から室町時代まで、江戸時代から明治維新まで、明治維新から昭和時代…、加えるなら、戦国時代や明治維新などのそれぞれの激動の「かたまり」…、個人的に思うのは、こうした大きな「かたまり」ごとに、前述のような、誕生からの流れをたどって、ある時点でまたリセットされているように感じています。
リセットされると、また最初から始まるのです。

江戸時代の中だけでも、これに似た小さな「かたまり」がいくつかあります。
江戸幕府には15人の将軍がいましたが、15人を順番に暗記するのは簡単ではありませんが、政争の大きな「かたまり」ごとにグループ分けをすると、意外と15人の名前がすんなり頭に入ってきたりします。

歴史の中で、こうしたそれぞれの「かたまり」には、ヒーローがいて、悪役もいます。
まさか、こんな意外な展開で登場…、というものもあります。
まるで、テレビドラマの演出のようです。

* * *

実は、前述の「リセット」という時代の大転換は、日本だけでなく、世界でもそうですが、大規模な自然災害や疫病がきっかけだったということも少なくありません。
恐竜絶滅の原因が、隕石の衝突で地球環境が激変したことだったのは、よく知られていますよね。

今回の新型コロナ問題は、世界的な規模の大きなリセット現象を起こすともいわれていますね。
私たちは今、そんな一瞬でやって来る歴史的大転換点をむかえているのかもしれません。

前述の「誕生・成長・成熟・腐敗・混乱・戦争・完結」という現象は、政治や経済だけの話しではありません。
音楽や美術、文学などの、世界のいろいろな芸術の歴史も、その長さに違いはありますが、似ていたりします。
日本の歌謡曲だって、流行ファッションや美術だって、例外ではありませんね。

* * *

歴史的に見ると、その時代のあり様に合わせて、建築物や文化芸術は、さまざまな形に変化します。
建築物には、建てられた理由があり、その特徴には理由があります。

金閣寺も、銀閣寺も、それぞれに理由が違います。
どうして片方は金で、片方は銀なのか、それにも理由があります。
それは、それぞれ建てた人物が、性格や考え方、能力はもちろんですが、時代がまったく違ったからです。

「同じようなかたちの建物なのに、あの時代に あの人が、あの目的で建てたから金閣寺なのね…、あの時代に あの人が、あの目的で建てたから銀閣寺なのね…、でも銀箔ではないよね。
とはいえ銀色に輝く瞬間もあるよね。
金閣寺になぜ、かたちが似ているの…?」

理由が理解できれば、「わび」「さび」がわかる、立派な大人の「歴男」、「歴女」ですね。

あなたは金閣派?銀閣派?
意外と地味に、銅閣派?

質問をしてきた彼女は、日本史を好きになってくれるでしょうか…?
大河ドラマを見るようになるのでしょうか…?
歴史の扉を、自らの手で、開いてほしいものです。


◇妄想旅行

このコラムを読んでくれている、日本史があまり好きではない子供たち…。
他の科目のお勉強に疲れたら、覚えるのではなく、歴史というテレビドラマを想像して、頭の中でいじくって、「歴史のドラマタイム」を楽しんでみてください。

家族で、ファミリードラマにするのもいいですね。
パパやママは、どんな台詞を考えてくれるでしょうね。

「ねえ パパ…、パパが源頼朝だったら、弟を殺した?」
「こわい北条政子が、旦那に弟を殺させたのかな~?」
「旦那さんは、奥さんのいいなりだったの…」
「ママなら、どうする?」

「おいおい、そんなことをママに聞くなよ」…by パパ
「あら、いいわよ。さあ、どうしましょう」…by ママ

くれぐれも、歴史を「暗記のお勉強タイム」とは思わないで…。

学校はしばらくお休みが続きますが、「学び」を無理に自粛することはありません。
現実に家族旅行ができなくても、妄想の「歴史旅行」なら、いくらでもできます。
まさにタイムマシーンでの旅ですね。

「学び」などと堅苦しく考える必要もありませんね。
好奇心にまかせた「歴史の旅」には、自粛もお休みもありません。

せっかくの学校の長期休みです。
さあ、皆さんも「歴史の妄想旅行」に出かけてみてください。
きっと、教科書を棒読みしているよりも楽しいですよ。

* * *

さてさて、パパたちは、家の中で何も語らず、スーツ姿で、テレビや新聞でも見てみましょうか…。

スーツ姿で立ちあがり、窓の外を眺めながら、うつむき加減に、眉間(みけん)にしわを寄せ、頭だけゆっくり振り返る…。
妄想と現実の狭間で、あなたは織田裕二さんです…。
(こんな感じ…織田裕二さん

そして、スーツのえりを両手でつかんで、ビシッ…。
上目づかいでニヤッとしてから、ママや子供にむかってひと言…。
「俺は、(コロナに)勝ってみせる」。

ドラマ「スーツ」の、甲斐正午か…。

時間がありすぎて、少し妄想癖にもなりそうですが、少しは刺激的なお休みになるかも…。

* * *

2020.5.1 天乃 みそ汁
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