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パパはアマビエ!

【概要】アマビエの歴史。アマビエと水害。アマビコ。山童と河童。


◇行きつくところ…

前回コラム「青い衝撃の日」で、ブルーインパルスといっしょに大空を飛ぶ「アマビエ」の絵を載せました。
今回のコラムは、そんな「アマビエ」のことを書いてみたいと思います。

これを読んで頂いている、子供たち、若者世代の、おそらく大半は、「アマビエ」と聞いて、おおよその内容はご存じだと思います。
アマビエの姿も頭に思い浮かぶと思います。

50歳以上の中高年は、はたして、どのくらいの認知度でしょうか…?
これを読んでくれている子供たち…、パパやママに教えてあげてね。

* * *

先日、中高年の方に、「アマビエをご存じですか?」と尋ねました。
さも、よくご存じの表情です。
好きだの、うまいだの、どこどこで獲れるだの、スーパーでどうのこうのと、しゃべり始めたのです。
よくよく聞いていると、どうも「アマエビ(甘えび)」の話しをしているようです。

また、ある高齢者の方と「アマビエ談義」をしていましたら、そんな話しもそうそうに、エアコンの話しをしはじめたのです。
どうも、「夏冷え」の話しをしたいようです。

人間…歳を重ねてくると、ひとの話しを聞かないし、用語は適当に使うし…、となりますね。
でも、人が老いるとはそうしたもの…。
甘えびだろうが、夏冷えだろうが、アマビエだろうが、何でもかまいません。
最終的には、「コロナに感染しないように、健康で、元気に乗り越えられたらいいね」の話しに、行きつくのです。

そこまで、たどりつけば、「アマビエ」さんも、本望といったところなのかも…。


◇アマビエ

ここで少しだけ、「アマビエ」のおさらいをしてみたいと思います。

「アマビエ」とは、日本古来から伝わる伝説の生きものです。
今の新型コロナ問題とともに、「疫病退散(えきびょう たいさん)」の象徴として、このアマビエ人気が、急浮上してきました。

今、世の中のアマビエたちの姿が、なんとなく皆、似ていると思いませんか…。
そうです、ベース(基本)になったアマビエの絵が存在するのです。

日本の古い歴史に残された、おそらく唯一のアマビエの絵ではないかといわれています。
それが下の絵です。



文言の中に、「弘化三年」とありますが、これは1846年のことで、江戸時代末期です。

この年、江戸の街は、利根川の大氾濫で、一面水没したようです。
隅田川では、両国橋以外のすべての橋が使えなくなり、「その川の流れはすさまじく、人々は大混乱」と書き残されています。
この水害をもたらした大雨は、6月から7月にかけてのことだったようです。
今でいえば、そのひと月くらい後の時期だと考えていいと思います。

江戸時代のその頃も、現在の今頃のように、大地震や大水害が頻発していました。
この1846年以降も、毎年、相当な規模の風水害が日本各地でおきています。

とにかく、この1846年は、あまり大きな政治の動乱はありませんでしたが、大きな自然災害で、それどころではなかったのかもしれません。

* * *

1846年の5月には、徳川家茂が、江戸幕府の12代将軍になります。
この年は、ペリーが黒船でやって来る7年前…1846年頃には、すでに外国船が日本各地に、ちらほら、やって来ていました。
安政の大獄が始まる約10年前。
まさに、1846年頃は、歴史的な社会の大嵐の直前という世の中でした。

約20年後の1867年に、江戸幕府が、政権を朝廷に返す「大政奉還」がありました。
1868年に明治時代が始まります。

* * *

自然災害の数の多さや、外国船の来日数の増大が影響したのかどうかはわかりませんが、疫病が何度も大流行していきます。
インフルエンザ、コロリ(コレラ)、麻疹(はしか)…。
江戸あたりでも、短期間に数万人が亡くなっていました。

この頃、自然災害と疫病で、江戸の日本橋の橋の上を、一日に200の数の棺桶が往来したと書き残されています。

とにかく1846年は、日本中で異常な大水害が起きたようです。
前述のアマビエは、そんな年に登場するのです。


◇見えんけど、おる

日本には、昔から、津波や水害から人を守ってくれる神様がたくさんいますね。
日本各地に「白髭(しらひげ)神社」がありますが、これは、水の波の上に立ちはだかり、それを鎮める「白髭の翁(おきな)」という神様を祀った神社ですね。
その翁たちでさえ、疫病は、なんともしがたい…。

目にも見えない、えたいのしれない疫病という奴らが、人の命を奪っていくのです。
ウイルスや菌といった知識など、その頃の日本人にあるはずがありません。
見えなくとも、人々の前には、死をもたらす「化け物」が、確実に存在していたのです。

「見えないけど、そこに確実にいて、人を病にさせるのだから…」。
「地震だって、誰だか知らないが、地面を大きく揺さぶるのだから…」。


◇お役人って、だれ…

ここで、前述の史料に書かれている文章を、現代語訳で、私なりに書いてみます。

〔原文〕
肥後国海中江毎夜光物出ル。
所之役人行見る二、づの如く者現ス。
私ハ海中二住、アマビヱト申者也。
當年より六ヶ年之間、諸国豊作也。併、病流行、早々私を写シ人々二見せ候得と申て、海中へ入けり。右ハ写シ役人より江戸江申来ル写也。
弘化三年四月中旬

〔訳〕
肥後国(今の熊本県)で、夜ごと、海が光る現象があらわれた。
その地域の役人が、海岸に出向いて見てみたところ、その者があらわれた。
役人に対して、その者が言うには、
「私は海の中に住んでいるアマビエと申す者です。今年から6年の間は諸国で豊作がつづきます。
しかし同時に、疫病が流行するので、私の姿を描いた絵を人々に、早々に見せなさい。」。
そう言って、海の中に戻っていった。
この絵は、役人がその姿を描いたもので、この写しが江戸にもたらされた。
弘化3年 4月中旬

* * *

私は、阪神大震災の時に、何か、大地震時の発光現象や地鳴りというものを体験したことがありますが、この「海が光る現象」とは、地震時の発光現象に思われないこともないです。

この話しが4月のことですので、九州では、江戸の6月から7月の大水害の数か月前には、すでに、水害自体か前兆のような現象が起きていたのかもしれません。
あるいは、何かの天候異常が起きていたのかもしれません。
何かの疫病がすでに、特定地域に蔓延していたか、流行の直前だった可能性もあります。

村の役人が、村人を落ち着かせるため、希望をもたせるために、創作したお話しだったのかもしれません。
あるいは、これは人の移動を止めさせるための、何かの方便(ほうべん)だったかもしれません。

いえいえ本当に、アマビエがあらわれたのかもしれません。


◇予言獣

江戸時代の、この絵のアマビエは、鳥の頭に、魚の身体、三本の足ですね。

実は、日本には、三本足の伝説の生きものは、めずらしくありません

前述のような、鳥と魚の合体生物ではなく、毛におおわれた猿に近い、三本足の生きものの話しが、いくつか残っているのです。
豊作を伝えたり、疫病の退散方法を告げたりするあたりは、よく似ています。

* * *

二種類の生きものの合体の例も少なくありません。

人と牛の合体では、「白澤(はくたく)」や「件(くだん / にんべんと牛の漢字から)」。
人と龍の合体では、「神社姫(じんじゃひめ)」。
亀女、姫魚(ひめうお)なども、そうした仲間です。

これらは、疫病の流行の時にあらわれる「予言獣(よげんじゅう)」と呼ばれています。
疫病の発生時、流行時になると、突如として登場してくる獣や妖怪なのです。

「アマビコ様が出たぞ~、アマビエ様が来たぞ~、姫魚様が来たぞ~」。
こうした言葉だけで、えたいのしれない疫病への警戒態勢が、急いで整えられていったのかもしれません。

不気味な絵からは、恐怖心も、わき上がってきますね。
現代でもそうですが、幼子なら、そうした絵にすら、怖がって近づきませんね。

「流行り病だから注意しなさい」と聞くよりも、「この札を玄関や神棚に貼って、家から出るな」のほうが、たしかに江戸時代なら効果がありそうです。
人々に、疫病への注意喚起という点では、現代の今で言えば、感染者数の発表とか、有名人の感染とか、クラスター発生情報にも、似ているのかもしれませんね。

「アマビエ様が出たぞ~」だけで、何を意味しているのか、どんな行動をとればいいのか…、江戸時代の庶民はみなわかっていたのかもしれません。
たしかに、アマビエ様たちは、幕府のお役人よりも強くて、怖い気がします。


◇救世主のアマビエ

現代の日本であれば、アマビエは、かわいい姿、ユーモラスで親しみのわくようなデザインに、その姿を変えています。
かわいいお菓子、アマビエだるま、アマビエ人形、ぬいぐるみ、キーホルダ―、ステッカー…、どれもすぐに購入したくなるようなものばかりですね。

皆さまも、一度「アマビエ 菓子」で画像検索をしてみてください。
その種類の多さだけでなく、そのクオリティの高さには驚かされます。
日本の菓子職人のセンスや能力に、あらためて驚かされました。
まさか、江戸時代の知る人ぞ知るという、こんな古文書の中に、大ヒット商品のデザインが隠れていたとは…。

* * *

今、コロナ問題で、国民の購買意欲が減退している中ではありますが、一部に、こういう時だからこそ、急激な売れ行きで、品薄になってる商品が続々と出てきました。
一時期のマスク、アルコール除菌剤だけではありません。

リモート会議、テレワークなどに使う「webカメラ」、部屋の換気に必要な網戸、先端企業やスポーツメーカーがつくり出す高性能マスク、特殊な型のテント、透明の特殊アクリル板、直接接触をさけるための自分専用小型器具、特殊フェイスシールド、ペーパータオル、うがい薬、体温計…。

食品では、ホットケーキミックス、パスタ類、ラーメン、シロップ、ホイップクリーム、小麦粉、めんつゆ、長期保存パン、ビールが激減し第三のビールが急増、普段は高級料理店でしか食べられない高級食材…、数々のまさかの現象には驚かされます。
そして、このアマビエ関連商品です。

「アマビエだるま」もなかなか手に入らないと聞いています。
アマビエまんじゅう、アマビエ弁当、アマビエランチ…、きっとあるはず…。

アマビエのゆるキャラの写真も、どこかで見ました。
熊本県の「くまもん」に、それもまさかの同郷に、ものすごいライバルが誕生してくるとは…。

今、多くの日本各地の神社でも、木彫りのアマビエ像が、続々と誕生してきていると聞いています。
もちろん御朱印も…。

きっと、アマビエ電車、アマビエバス、アマビエツアー…、出てくるはず。

現代では、アマビエは、ビジネスの救世主にもなってくれるのかもしれませんね。

* * *

現代のそうした動きにひきかえ、江戸時代の予言獣たちの絵…、何か、鬼気迫る、切実な祈りさえ感じさせます。

あまりにも迷信じみたおかしな話しや、妙な妖怪の絵と思われるかもしれませんが、医療や感染予防という概念さえなく、祈祷やまじないに頼るような江戸時代ですから、「予言獣」は、大真面目に、社会が疫病にとれる最大限の対策だったのかもしれません。

江戸時代…、予言獣の姿は、笑うような対象ではなく、まさに命の救世主という祈りの対象であった気がします。


◇アマビコ

実は、「アマビエ」はもともと、「アマビコ」と呼ばれ、いつからか誤記、誤認によって、「アマビエ」に変化していったともいわれています。
そして、前述の三本足の猿こそ、「アマビコ」と呼ばれていたのです。
「尼彦」、「海彦」、「天日子」と表記されている例もあると聞いています。

本コラムシリーズでも、神話のお話しを書いたことがありますが、九州はまさに、高千穂のある神話のふるさとです。
「アマ」と聞けば、すぐに、あの「天上界」を思い起こさせます。
「アマビト」…?

* * *

「肥後国」とは、もともと火山の後ろにある国という意味だとも聞いたことがあります。
神話の世界では、火山の火口は、死の世界への入り口です。
その火口を出たり入ったりできる方は、特定の方だけでした。

そして、この肥後国(今の熊本県)には、もうひとつの三本足の生きもの伝説があります。
前述の三本足の猿のような姿で、今度は海ではなく、山の中にあらわれます。

その地域の人々に、五年間の豊作と、疫病の蔓延を告げるのです。
そして、自分の姿を見た者は、疫病から逃れられると伝えるのです。
この妖怪の名は、「山童(やまわらわ・やまわろ)」です。

川にいる童子は…、そうです、「河童(かっぱ)」ですね。
河童が、山に暮らす「山童」になっていったのです。
川のない地域には、山童がいてくれるのです。

でも、河童が何かを予言するという話を、私は聞いたことがありません。
それに、河童は二歩足…、もうひとつの足とは何なのでしょう。

日本には、三つの目を持つ妖怪がたくさんいますが、三つめの目は、心や精神の目ともいわれていますね。
山童(やまわらわ・やまわら)やアマビコの三本目の足が、何を意味しているのか、私にはわかりません。
何かの大きな「支え」でも、意味しているのでしょうか…?

私が、あなたの「目」、「足」になってあげる…。


◇アマビエは、どこ…

このアマビエは、今、コロナたちの前で、私たちの盾(たて)となってくれるのでしょうか…。

ウイルスは、私たちの目には見えません。
それなら、アマビエが、見えても見えなくても、ちっとも問題ではありませんね。

このアマビエたち…、ひょっとしたら、海や山にしかいないのではないのかもしれません。

都会にも、すでにあらわれているか、何かに化けているのかもしれません。

私たちが、いつも見ている、出会っている人に、化けているのかもしれません。
それは、生きものだけではないのかもしれません。

エッ!
パパも…、ママも…、そうだったの。





有名な脚本家のあの方も、「あまちゃん」に助けてもらったのかも…。

「アマビエのチカラ」…、きっと、古い時代も現代も、そのチカラは衰えていないと思います。

なぜって…、それは、私たちの近くにいるのですから…。

これを読んでくれている子供たち…、アマビエは…… いるよ!



☆☆本コラムでは、こんな活動も行っています。

「天使のチカラ」

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【追伸】
今回のアマビエの原画とイメージ画は、アメーバブログの中で「妖怪ファンタジーブログ」を書かれている、やはりアマビエが人に変身(?)した「ありす」様の絵を使用させていただきました。
ありす様に、深く感謝申し上げます。
「天ビエ乃」より。

ありす様のブログ

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2020.6.9 天乃みそ汁
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